百年物語の鉄フライパン

 
今年の製品化したのが「鉄フライパン」これについて書いてみる。

FDのWEBでの紹介

そもそも、私のような有名でもない地方のデザイナーがどの様にして製品をプロデュースするかを紹介します。燕三条エリアは家庭用品の金属加工産地です。ステンレス製品が得意ですが、鉄製品を扱うメーカーも複数あります。私がお願いしたかったのはサミット工業です。

20年ほど前に若気の至りでフリーランスデザイナーをはじめた私に、何度か仕事をさせてくれ色々教えても下さった、社長(現会長)に感謝の気持ちが有りました。
ずっとご無沙汰しており、電話するのさえ気が引けたのですが、何度か電話してたまたまお会いする事が出来ました。電話を取り次いで下さった、女性の事務員の方も当時と同じ方で「会長は毎日会社に来られるわけでないので社長と話された方が良いのでは?」とアドバイスをもらい、社長と会いに行ったとき、会長がおられ少し話が出来ました。

20年長いようなで短い時間、お邪魔した事務所の様子も同様でした。息子さんである社長とは全く面識が無いわけではなく、私が考える鉄フライパンを説明し、百年物語への参加もお願いしました。

社長からは、同様の話(鉄のチッ化)は多方面からも有り何度かチャレンジはしたが、結果が思わしくなく難しいとの回答をいただき、百年物語のエントリーの関係で時間も限られ、後日電話したのですが断られました。鉄をチッ化させ錆びに強くした製品は千葉県のリバーライトから極という製品が出ています。同社のみならず大阪のメーカーからも同じような製品が有りますが燕三条では商品化されていません。

そもそも私はステンレスにフッ素加工したキッチンツールを製品化しています。ステンレスにフッ素加工するというのは珍しく、バイヤーの方からも「ステンレスにフッ素して大丈夫か?」と質問された事もあります。通常フッ素加工する製品は、フライパンのように加熱調理する道具がほとんどです。
フッ素は熱に弱く、230°C以上で劣化し、さらに高温になると有毒のフッ素ガスを発生させます。(剥がれなくてもくっ付くようになるのはこの為です)

アルミのように放熱性の良い素材は熱がたまりにくいので良いのですが、ステンレスは蓄熱素材ですから高温になりやすく、フッ素加工には向かないとされます。密着性もアルミの方が良いのです。
ですが、キッチンツールのように直火で無いものは問題ありません。密着を良くするための下地加工もしっかりと燕三条エリアで行っています。

では逆にアルミのフライパンが本当に良いのでしょうか?という事です。燕三条でも大手の問屋は中国や韓国からフライパンを大量に輸入しています。高温で劣化するフッ素加工されたフライパンは消耗品として何度も買い変えてもらえる「良い商品」なのです。逆にステンレスや鉄の「鍋」を作っているメーカーは青色吐息といったところです。燕三条を代表する鉄フライパンを作り「世に問いたい」という思いでデザインしたのがこの「鉄フライパン」でした。
 
幸い鉄フライパンを作れるメーカーは他にも知っています。15年以上前に金子信雄さんという役者さん(楽しい夕食というTV番組が有りました)の商品をデザインした時に信雄 by CookPalというシリーズで鉄フライパンが有りました。その工場でフライパンの皿を加工してもらい最終的にキッチンツールのメーカーであるプリンス工業にお願いして商品化したのがこの「鉄フライパン」です。

では鉄鍋の専業メーカーも断ったチッ化とは何でしょう。チッ化とは鉄の表面に窒素を結び付けて表面の硬度を高める加工です。主に耐摩耗性を高める為の加工で自動車部品等に良く用いられます。

ここであらためて「鉄フライパン」が何故良いと考えるか説明します。

アルミのフライパンは消耗品でしかない、という事は上で説明しました。フッ素の特性です。同時にフアルミは熱伝導が良い素材ですが、フッ素加工している為に材料に熱が伝わりません。熱したフライパンに材料を入れた際の「ジュッ」という力強い音が違います。
鉄フライパンは熱伝導も良く、美味しく調理が出来ます。鉄分の補給もでき、金属イオンも調理に向いているとされます。電磁調理器での熱効率もアルミとは比べ物になりません。欠点は重い事と手入れが難しく錆びが発生する事です。

例えば、あわただしい朝食に使って、そのまま流しに水を浸して戻ってから洗う、なんて事をしたらすぐに錆びます。錆び自体は害はありませんから、錆びてもさびを落として油をなじませれば何ともありませんが、錆びたら捨ててしまう方もいらっしゃいます。重さはある程度仕方が有りませんが、錆びを何とかできないか、と考えられその一つの答えが「」シリーズです。
この製品は特殊チッ化によって錆びに強くなった、とあります。ではチッ化すれば錆びに強くなるのでしょうか?答えはNO。チッ化によって錆びに強くなる事はありえません。ある種の酸化被膜を形成しているのでは?というのが私の推測でした。
 
一般的な鉄フライパンも昔から「黒皮」「ブルーテンパ」と呼ばれる被膜処理をした材料から加工された鉄フライパンはありました。これは、鉄の板材料の時から加工されている材料を使ったフライパンです。「空焼きの必要はありません」と記載されたフライパンがそうです。それ以外の「くず野菜で空焼きしてください」とあるものは鉄フライパンにさび止め(売り場での錆)塗装がされたものです。「黒皮」「ブルーテンパ」も通常の鉄はビッカーズ高度120HVくらいでしょうから、ステンレスターナーで擦ればすぐに減って鉄の地が出てきて錆びてしまいます。

(硬いと言われるステンレスでも180HV程度。マルテンサイト系で焼きを入れれば300HVくらいになるでしょうか。)

チッ化する事で表面硬度は500HV以上にはなるでしょうから、焼きを入れた刃物で擦ったくらいでは削れない表面層が酸化被膜で錆びに強くなっている事によって「錆びにくい鉄フライパン」が完成するわけです。私達の製品はさらに表面層に特殊な加工を施す事で油がなじみやすい構造とする事に成功し、フッ素ほどではないにしろ焦げ付きにくい製品となりました。これを「OXYNIT(オキシナイト)加工」と名付けて商品化しました。
 

拡大した表面の画像です。鉄素材表面に小さな凹凸が出来る事により、食材がくっ付きにくくなる事が(財団法人日用金属製品検査センター)の調査で認められています。
 

鉄の厚さは1.6mmですが、スピン加工なので底に比べて縁の部分は若干薄くなります。内側の金型に合わせて、ロクロのように引っ張って伸ばしてくるような加工方法ですから横に細い線のような跡が付きます。
 
 
また、ハンドル部分は熱伝導率の低いステンレスを本体の質感に合わせてブラスト加工し曇ったような表情を持たせています。鉄の本体+ステンレスのハンドルは信雄 by CookPalも同様でした。当然ハンドルもより錆びにくいので鉄にメッキしたリバーライトの製品とは違います。
木のハンドルに熱によるダメージが少なくなるように通常より長くしてその分木柄を短くして、保管の際特別に邪魔になる事もありません。

こうして完成したのがFDの「鉄フライパン」です。日の丸に見立てたフライパンのシルエットが可愛い箱に入っています。現在20cmの小型サイズを取り扱っています。メーカーさんは26cmも作っていますがわけあって現在は20cmのみの取り扱いです。
 

一番上のCGによるレンダリングとそのフォルムを比べてみてもほぼ私のイメージ通り出来たのが分かってもらえるでしょう。

そして、私達地方のデザイナーがどの様にメーカーと関わりモノづくりをしているか少しでも伝わったでしょうか。およそデザイナーのイメージと違う仕事をしていると思われる事でしょう。でも、ちゃんと絵も描き、図面も書き、製造現場へ深くかかわり、くじけそうになる製造現場と協力し、互いに信頼する事で商品を開発しているのです。
 
その上で、出来るだけ私達の製品を使っていただく人に正確に届けたい、という気持ちで販売させていただいてるのがFD STOREです。家庭用品の流通ではコンシューマーから「どこで買えますか」と尋ねられても正確に答えられない事が多いのです。自分達で流通させる事で少しでも変えていきたいと考えています。このフライパンは自由が丘のカタカナさんで取り扱っていただいています。後はドイツ/フランクフルトのSHU SHUさんでしか取り扱っていただけていない商品です。(メーカーの方で伊勢丹/三越の催事等でも販売)販売していただけるお店の方も募集しています。

使った方の感想等聞けたら嬉しいです。

FD STORE(FDでデザインしたモノだけを扱う私達のショップ)
www.fdn.co.jp/store
 
百年物語(新潟県の優れた生活道具ブランド)
http://www.nico.or.jp/hyaku/
 

コメント

このブログの人気の投稿

鉄フライパンの安全性について

金属も色々あって食品に触れる時、どの様に考えるかという事。